小児科
この春、蜂蜜が原因の乳児ボツリヌス症で死亡した6カ月男児のニュースがありました。乳児ボツリヌス症とは、ボツリヌス菌が腸内で増殖し、産生された毒素が体内に吸収されることによって起こる症状のことで、長引く便秘に引き続いて、哺乳力が低下し、泣き声が小さくなるなど、筋肉がまひする症状が特徴です。呼吸筋がまひして呼吸障害を起こすと生命に関わってきます。 ボツリヌス菌は通常、土壌の中に生息しており、成育環境が悪いと、芽胞(がほう)と呼ばれる耐久性の高い構造に変化して、食品中に紛れ込みます。それがボツリヌス菌にとって好適な低酸素状態になると、発芽・増殖し、毒素を産生します。蜂蜜中のボツリヌス菌は芽胞の状態で存在しており、成人が蜂蜜を摂取しても、腸内細菌叢(さいきんそう)と呼ばれる多種多様な常在菌のバランスにより、芽胞の発芽・増殖が妨げられ排せつされますが、乳児の場合はこの腸内細菌叢が未熟なため、発芽・増殖に好適な環境となるわけです。 日本では、昭和62(1987)年に厚生省が、「1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように」という通達を出しています。当時の調査では約5%の蜂蜜からボツリヌス菌の芽胞が発見されたとあります。また、国内の商品には「1歳未満の乳児には与えないようにしてください」との注意書きがラベルに記載されているものもあります。蜂蜜以外にボツリヌス菌汚染の可能性がある飲食物は、井戸水、黒糖、コーンシロップなどが挙げられ、また、大人と食事をすることで与えてしまう可能性があるものとしては、飯寿司(いずし)、からしれんこん、滅菌されていない瓶詰・缶詰などがあります。ボツリヌス菌の芽胞は高温高圧(120度4分)で、毒素は100度数分の加熱で不活化されます。 乳児期は腸内細菌叢が未熟であることを念頭に置いて、安全な飲料や離乳食の食材を選んでいただけたらと思います。 |
2017年8月6日